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著者に聞く!

『「キャリア教育力」が未来をひらく 高校選びの新指標』
著者・加星宙麿記者に聞く vol.1

子どもたちが自らの手で未来をひらく キャリア教育から始まる新たな高校選び

子どもたちが明確な将来の目標を掲げ、自立していくためには、早期のキャリア教育が必要です。大阪日日新聞で好評連載企画をまとめた『「キャリア教育力」が未来をひらく 高校選びの新指標』の著者で、大阪日日新聞の加星宙麿記者に、「生きる力」を育てるキャリア教育の現在とこれからについて、お話をうかがいました。(vol.2はコチラ

 

―本書で紹介されている各学校の取り組みは、どれもユニークで何より生徒自身が楽しそうでしたね。学校選びの際、子どもたちは、そのキャリア教育が自分に合っているか、どのように見極めればよいとお考えですか。

 子どもたちは、キャリア教育と言われてもピンとこないと思います。
 本書では高校を取り上げているため、そこに焦点を当てますと、まず自分が楽しめるものや、やりがいを見出せるものがあるか各校のホームページなどで探してみてください。クラブや授業以外の学校活動、何でもいいと思います。友だちや先輩の意見を参考にするのもいいでしょう。自分が活躍できる場や生き生きと過ごせる居場所を見つけ出せれば、それだけで「生きる力」は高まり、将来に生かせる可能性は高いです。

 

―まずは、子ども自身の興味のあるところから考えてみるんですね。

 ええ。ただ、その力を社会のどこで生かすのか、いずれは考えなければなりません。
 たとえば大学の就職活動の時期にいきなり考えるよりは、じっくりと考える時間を取ったほうが将来的にみてもお得です。世の中にはどんな職業があるのか、そこではどんな仕事をし、どんな風に取り組めばいいのか。そういったことを考える機会を学校がどれだけ用意しているのかも高校選択の際にぜひ意識してみてください。
 その用意の仕方が、職場体験だったり、大学の授業体験だったりといくつかの選択肢があると思うので、保護者とも相談しつつ、自分がより積極的に取り組めそうな内容を選んでいけばいいのではと思います。

 

―私もまだ小さいですが、子どもがいます。本書を読んで、親の立場で、将来は学校選びの際にはキャリア教育のことも考える必要があると感じました。子どもに合ったキャリア教育を選ぶには、どのように子どもと話をすればよいのでしょうか。

 そうですね。まずは将来について子どもと話し合う姿勢が保護者に求められます。
 そこで子どもにどんな力を付けていきたいかを考えます。「○○関係の仕事に興味がある」となれば、その「○○」につながりやすい教育を行っている学校を探すことになりますし、「自分で考える力を身に付けさせたい」場合はそういった項目を重視しているか学校の姿勢をみていくことになります。漠然と「少しでもいい大学に入れたい」と進学実績だけをみる姿勢は、今の社会状況だと子どものためになりません。

 

―子どもの興味と学校の姿勢が合致しているのかどうか、そこを考えていくのが難しそうですね。

 学校の取り組みを知るのに、まず参考になるのはホームページです。生徒から選ばれようと努力している学校は基本的に内容が充実しています。自分たちの探している取り組みがあるのか、授業内容や学校行事などについて、いくつかの学校をぜひ比較してみてください。多くの方が思っているよりも高校教育は豊かで多彩です。

 

―それなら、いくつかの学校にしぼることはできそうです。

 興味のある学校がいくつか定まれば、学校説明会などで直接聞くのが効果的です。
 キャリア教育の観点から質問するなら、たとえば中央教育審議会は「生きる力」の基礎として1.人間関係や社会を形成する力2.自分を理解し、管理する力3.課題を見つけて解決する力4.主体的に人生設計する力─の四つを挙げています。
 「こちらの高校では、コミュニケーション能力をどのように身に付けさせていますか」といった質問をし、明確な回答があれば、その学校はしっかりと考えている可能性は高いです。

 

―各学校の対応もしっかり見極めればいいんですね。
 本書に掲載されている学校の取り組みも多種多様で、独自の取り組みを確立させるためにいろいろ考えておられますね。

 各高校は生き残りをかけて独自の特色を考えるようになってきています。私学は生徒に選ばれることが経営に直結しますので、社会のニーズを踏まえた大胆なコース設定などを行っていますし、大阪府内の公立は、定員割れが続くと再編整備の対象になる条例が施行されたため、多くの高校が危機感をもって特色を出そうとしています。

 

―学校独自のキャリア教育を経て、進路を決定する子もいれば、それを自分の経験として将来に役立たせる子どもたちもいるとのことでした。そうした子どもたちと、キャリア教育を受けていない子どもたちとは、どのようなところが違うのでしょうか。

 たとえばあるイベントを取材したとき、運営スタッフだった国立大学の学生に将来どのような職に就きたいか質問したことがあります。そのときの返答は「どんな仕事でもやる自信があります」で、いくら質問しても具体的な目標はでてきませんでした。一方、本書で取り上げた学校では、生徒に同じ質問をしたとき、明確な職種やおおよそのイメージは固まっているケースがほとんどだったのです。

 

―キャリア教育で、早くからはっきりとした将来の目標を持つことができたんですね

 そうなんです。職業を選ぶには、自分の得手不得手を理解し、どんな場所なら力を生かせるのか、理想と現実を突き合わせて選び取る力が必要になります。
 先ほどの学生がキャリア教育を受けたかどうかは定かではありません。しかし、充実したキャリア教育を受けた生徒は、高校生の時点で国立大学の一人の学生よりもはっきりと目標を持って生きていることがうかがえます。

 

―子どもたちが生き生きとしている理由がわかる気がします。
 本書では、子どもたちだけでなく、キャリア教育に取り組む先生方も生き生きしておられるのが伝わってきます。実際にたくさんの先生方にお会いして、加星記者が気付かれたことを聞かせてください。

 人は、自分の働き掛けによって相手から好ましい反応があったり、社会的に評価される影響が生まれたりすれば喜びややりがいにつながります。それは自尊感情をはぐくみ、さらに前向きな行動を生みだします。これは子どもも大人も関係なく起こる人の成長過程です。この営みが次世代によりよい仕組みを残していくのだと思います。充実したキャリア教育を展開している先生方からは、このプロセスを歩んでいる様子がうかがえました。

 

―本書に紹介されているキャリア教育を受けた子どもたちからは、自ら将来を選択する喜びや自信のようなものを感じます。そうした子どもたちがいるだけで、学校全体に影響を与えていたりするのでしょうか。

 一部の生徒のがんばりが他の生徒の意欲に火を付けることなどは往々にしてあると思います。一方で、それが学校の隅々にまで行き渡るかといえばそういうわけではなく、進路を決めることなく高校を卒業する生徒や中退する生徒もいるため、いかにいい影響を学校全体で共有するかは課題の一つと言えます。

 

―成功を収めている事例が多いキャリア教育でしたが、反対に、キャリア教育に合わない子どもたちもいるんですね。そうした場合、学校側のフォローなどはあるのでしょうか。

 考えるレベルによるのですが、たとえば職業体験の場や職業分野のコースが合わない場合などは、教諭が生徒の能力に応じて変更を勧めるといったことはあると思います。ただ、現行のキャリア教育が功を奏しなかった生徒がいるのは、進路未決定者や中退者がいることからも明らかです。そうした子どもたちの背景には、家庭の事情や友だち関係などさまざまな要因がかかわってくるとみられます。学校だけでなく、専門家や保護者らとともにフォローする姿勢が必要になり、そうなるとキャリア教育の合う合わないの問題とは違うレベルのフォローになりますが、どのような学校でも一定のフォローはあるかと思います。

 

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プロフィール

加星宙麿(かぼし・おきまろ)

1976年大阪府生まれ。大阪市立大学大学院修了。2003年から大阪日日新聞記者。大阪市政担当などを経て現在、大阪府政、大阪府教育委員会を担当。連載企画に「違いを力に 発達障害をめぐる現場から」「いちゃもんつけんと話ししよ 追い詰められる学校」「ケータイと向き合う!ネット社会に生きる子供たちのために」「反貧困―連帯する大阪の現場から」「大阪ダルクの挑戦 薬物依存回復への道」「報告から20年 エイズは”いま”」など。

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